2013年12月19日木曜日

Cañizares


カニサレス日本公演(2013年12月18日、新宿文化センター)。

素晴らしかった。音楽的な完成度の高さはCDでも十分に分かっていたが、生で聞いて印象的だったのは、音に力があること。これは、もちろん音が大きいという意味ではない。ひとつひとつの音が生きているというか、表現に満ちているというか。あっけにとられるほどの超絶技巧だが、その技巧も音楽的に意味のある使い方をしていて、全然鬱陶しくない。

まあ、こういうのには興味がないとか、フラメンコはこんなものではないとかいう人がいたとしても驚きはしない。それに対する僕の最初の答えは、良い音楽ならばどっちでも良いではないか、というもの。もうひとつの答えは、好き嫌いにかかわらず、カニサレスのやっていることは、おそらく現代のフラメンコの音楽的洗練のひとつの到達点だろうということ。

洗練と複雑化は異なる。今回は4人組の演奏だったが、ギターがカニサレス本人ともう1人、あとの2人は打楽器(カホン、カスタネット、パルマ)と踊り担当で、ある意味では最小の構成だ。余計な音を加えずに、完成度の高い音楽を作り上げた彼(ら)の仕事は素直に素晴らしいと思う。踊りも音楽の一部になっていて、靴音は内容上必要なところにしか入らない。それと、カンテを加えなかったのは見識だろう。あれだけ緊密に構成された中に、カンテの入る余地はない。少なくとも僕には考えにくい(ましてや、今時のふにゃふにゃボーカルが入ったりしたら興ざめもいいとこだ)。カンテが要らないぐらい音楽的に練り上げられたフラメンコを聞くことが、伝統的なカンテさえあれば幸せな者を複雑な心境にさせることは事実だが、良いものが聞けた満足の方が大きい。

知らない曲目もあったが、多くはアルバム Cuerdas del alma から。あとはファリャも幾つか入っていた。最新のCDからの曲のはずだが、カニサレス1人の多重録音とはやはり印象が異なる。それから Cuerdas の曲の中にさりげなくファリャのメロディを入れたりと、生ならではの楽しみも多かった。