2013年6月8日土曜日

etc.

ひょんなことから iPhone の西和辞典 (Español Diccionario para iPhone 1.3) で etc. の音声を聞いて驚いた: e te ce と発音しているのだ。もちろん Electronic Toll Collection System ではなくて etcétera のこと。僕自身はそんな発音を聞いた覚えがなく、etc. と書いて etcétera と読むのだと信じているから、何やってんのと思ったのだった。ちなみに、辞書のテクストには発音表記はなく、etcétera への送りがある。それから、幾つか略語の発音を聞いて楽しんだのだが、CCOO (Comisiones Obreras) が [θe.θe.o.ó/se.se.-] になっているなど、どうも僕の感覚とずれるものがあるので、一応調べてみた。

その結果分かったことは、etc. には e te ce という発音が存在するということ: «Tradicionalmente, etcétera en su uso propio para cerrar una enumeración se ha escrito abreviado como etc. Tan extendida está la abrevitura (sic) frente a la forma plena, que a menudo se deletrea a modo de sigla, no solo en la lengua oral, sino incluso en la escrita, como etecé (Wikilengua: etcétera)».

検索してみると、確かに例が見つかる: «En términos prácticos, cualquier empresa, cooperativa, asociación civil, ONG, agrupación política, etecé etecé debe tener una identidad definida y unas metas claras, basadas en un origen y un esquema de desarrollo sólidos (BLOG DE LA COOPERATIVA C10)».

CCOO はどうか。これは Comisiones Obreras と読むという証言がほとんどだが、興味深い記述がみつかった。アスナール政権時代、スペイン国営テレビのニュースキャスターだった Alfredo Urdaci が ce ce o o と言った事件がある (WikiPedia: Alfredo Urdaci)。Wiki によれば、この発音は  «no es la práctica habitual en televisión y radio» で、ここから Urdaci の何らかの意図が感じられると同時に、ce ce o o がメディア以外では存在する可能性が予想できる。また、スペインの労働者団体の名前が他の国では知られている保証はないから、スペイン人以外のネイティブが ce ce o o と読んだとしても不思議ではない。つまり、スペインでは Comisiones Obreras と読むのが普通だが、スペイン語圏全体では状況が違うという可能性はある。

ただ、これで勉強になりましたで終わりにするのはくやしいので、アカデミアの正書法をのぞいてみる。アカデミアによれば、略語には大きく分けて2つのカテゴリーがある。ひとつは abreviatura: «Una abreviatura es la representación gráfica reducida de una palabra o grupo de palabras, obtenida por eliminación de algunas de las letras o sílabas de su escritura completa (p. 568)» で、何らかの形で完全形より文字が減っているもの。もうひとつは sigla: «Se llama sigla tanto al signo lingüístico formado con las letras iniciales de cada uno de los términos que integran una expresión compleja como a cada una de esas letras iniciales (p. 577)» で、頭文字を連ねたもの。

そして、前者は «su lectura corresponde a la realización de la forma plena de la palabra abreviada (p. 570)» (ただし例外はある)。後者は2種類に分かれ、スペイン語として発音が難しいものは文字の連続として読み (DNI: de ene i)、そのまま単語として読めるものはそう読む (FIFA)。この最後のグループを acrónimo と呼ぶ。また、混合型もある (PSOE: pe soe)。

さて etc. は etcétera の略だから abreviatura であり、その読み方は元の形をそのまま、つまり etcétera ということになる。ざっと見た限りでは例外としての言及はないので e te ce という読み方は非推奨だと見なされる。また etecé という単語もアカデミアの辞書には登録されていないので、学習者に進んで教える必要もない。

CCOO はどうか。これは一見 sigla のように思えるが、複数形の作り方という観点からは、アカデミア的には abreviatura に分類されるはずだ。まず sigla の複数については、たとえば ONG (o ene ge) の複数は発音上 o-ene-gés のように -s がつくとしても、書くときには何も加えないというのがアカデミアの推奨するやり方。つまり ONGS でも ONGs でも ONG’s でもなく varias ONG のように書け、ということだ。仮に、これに従って comisiones obreras の sigla を作るとしたら CO ということになる。一方 «En las abreviaturas obtenidas por truncamiento extremo, el plural se expresa duplicando la letra conservada: ff. por folios, vv. por versos, ss. por siguientes, FF. AA. por Fuerzas Armadas (p. 573)» のように、abreviatura の複数形には文字を重ねるというやり方が紹介されている。したがって CCOO は abreviatura ということになり、読み方も Comisiones Obreras という完全形が推奨されていると考えられる。ただし、ざっと見た限りでは CCOO への言及はないので、あくまでそう考えられるということだ。

あと、abreviatura は、アカデミアに従うならば省略を存在を示すピリオドが必要で、複数の単語はひとまとめにしないのが基本。たとえば EE. UU. (Estados Unidos) のように、ピリオドとスペースを入れて書くのが推奨形だ。しかし実際にはピリオドありなし、スペースありなし、いろいろな書き方が存在する。CCOO も、アカデミア的には CC. OO. になるはずだが、当事者は CCOO とピリオドなしの続け書きだ (CCOO のページ)。世の中規範通りには行かない。と言うか、だから規範がある。

そこで辞書に戻る。辞書の編集方針に関わる問題だから、本来はそれを確認すべきなのだろうが、etc. に e te ce だけ、CCOO に ce ce o o だけしか発音を示さない意味はないだろう。無難ということでは etcétera と Comisiones Obreras だけで良い。他の発音を示すことは、編集方針次第だが、役立つ記述になるだろう。OMS に [óms] と o eme ese があったり PSOE に pe soe と soe があったりするのも採り入れて行けば良い (アカデミアの正書法にも載っているくらいだから、こっちの方が優先度は高いだろう)。

ところで、僕は CCOO を見るとまず頭の中で coco と読んでしまう。別に anagrama が趣味なわけではない。

RAE; ASALE, 2010, Ortografía de la lengua española, Espasa.