2013年4月19日金曜日

Orejón


Naranjito de Triana が歌った tango de Triana (1968年 (多分) に出たLP Naranjito de Triana 所収) に、こんな歌詞がある。

Ya vienen bajando / por las escaleras / pimientos y tomates / XXX y brevas ...

この XXX が問題。僕は torrejones と教わり、確かにそう聞こえるのだが、これでは内容的に落ち着かない。文脈から考えて野菜や果物系のものが来て欲しい。しかし、手元の辞書などを見る限り、torrejón にそういう意味はなさそうなのだ。いつか時間があったら torrejón にそれ系の意味がある (あった) かどうかチェックしたいと思っていたのだが、先日ふと思い出して大先輩に聞いてみた。すると即座に、あれは orejones だとの返事。Naranjito の torrejones は、もとの歌詞が良く理解されず変形したものだろうということだった。

そういえば Esperanza Fernández は2007年の録音 (Recuerdos 所収) で orejones と歌っている。Orejón は「干した桃[アンズ](『西和中辞典』)」という意味があるから、内容的にはぴったりだ。僕は、もしかしたら torrejón にはかつて干した果物のような使い方があって、それが忘れ去られた結果の合理化かもしれないと思っていたのだが、話はむしろ逆なのかもしれない。

フラメンコに限らないだろうが、人から人へ伝えられていく過程で変形していき、歌詞の意味が通らなくなったと思われるものがある。この torrejones もその例だということになるのだろう。歌う側からすれば、自分にとって筋が通るように歌詞を変えて歌えばよいだけの話だが、研究者としては、意味不明になった歌詞をきちんと記録しておかなければならない。つまり、ふつうに文献学しましょうということだ。