2023年7月11日火曜日

No solo es que

Jidequín 氏の記事:
https://note.com/jidequin/n/nc249535a01c5
に興味深いスペイン語が引用されている: «No solo es que estén lejos de lo que defiende el PP, sino que en un porcentaje muy alto son un delirio».

スペインの総選挙で Partido Popular (PP) と Vox の関係が注目されている中、PPの Borja Sémper が Vox のプログラムについて論評したもので、大雑把に言うと Vox の選挙公約は「PP の主張とかけ離れているだけでなく、妄言度が高い」ということになる。

もちろん、興味深いのは PP と Vox がどうなるかではなくて、ここに estén という接続法の形が使われているということだ。接続法が現れたのは no があるから、もう少しちゃんと言うと es que が否定のスコープに入っているからで、特に珍しいことはない (学習者は «no es que 接続法» と覚えよう) のだが、solo があるおかげで que 以下の内容は否定されていない。今 es que が否定のスコープに入っていると言ったが、no は solo だけを否定している (es que 以下は否定のスコープに入っていない) のではないか、とあなたは思わなかっただろうか。僕は思った。で、検索してみた。

Google で "no solo es que" を見てみると、直説法の例もあるが、接続法の方が多そうな印象だ。だが、もう少しちゃんと数を見たいので RAE の CORPES XXI を見てみる。そうすると "no solo es que" は62件、うち接続法が44、直説法が18で、やはり接続法の方が多い。直説法の例を1つだけ紹介しよう:

  1. Y esto nos parece que está muy bien, aunque está claro que no sirve para nada, como la tozuda realidad nos demuestra: no sólo es que persisten los conflictos armados, sino que basta mirar a nuestro alrededor para comprobar que vivimos en una sociedad cada día mas crispada, más violenta y agresiva, donde poder vivir juntos y en paz es cada día mas complicado.

数は少ないが直説法の例はあるので、論理的には否定されていない内容を「事実だと断定し、聞き手にむけて主張する (福嶌 2019: 29)」直説法で表すことはできるわけだ。しかし、テクスト的には、その後に来る sino que 以下の方が情報価値が高いだろうから、前半は「事実だという断定・主張をしない (ibid.)」接続法を使った «No (solo) es que 接続法 sino que 直説法» というパタンが定着しているのかもしれない。この接続法を否定のスコープで説明するか、否定に頼らず情報構造で説明するかだが、僕は no の存在が大きいと思うので、否定がらみで考えてみたい。

ついでに «no solo creo que» を CORPES XXI で見てみると5件ヒットした。重複があるので実質4件だが、直説法2、接続法2という結果。それから «no solo es cierto que» は1件だけ見つかり、これは直説法だった。前者を Googlea ってみると、194,000件という数字が出るのだが、最初のページだけ重複を除いて数えると、直説法が5、接続法が1。後者の Google 検索はなんと5,900,000件という数字が出るのだが、実際には1ページ目の8つしか確認できない。そのうち7つが直説法だった。というわけで、数が少ないので断定はできないが、creer や ser cierto の場合は直説法の方が多いのかも知れない。同じ «no solo .... que» の環境でも接続法の出現度が異なる可能性があるということだ。

  • REAL ACADEMIA ESPAÑOLA: Banco de datos (CORPES XXI) [en línea]. Corpus del Español del Siglo XXI (CORPES). <http://www.rae.es> [2023/07/11]

  • 福嶌教隆, 2019, 『スペイン語のムードとモダリティ』, くろしお出版.