2021年8月8日日曜日

Medirse a

スペイン国営放送のラジオニュースをPodcastで聞いていたときのこと。

オリンピックもいよいよ最終日、メダルがもう1つとれるかもしれないという話で «La selección masculina de waterpolo luchará por el bronce. España se medirá a Hungría (Boletín RNE, 2021/08/08, 00:00H)» と言うので、あれっと思った。Medirse を「対戦する」という意味で使うのは知っていたが、前置詞は con だと思っていたので、そっか a でも使うんだ、と思ったわけだ。

ちなみに『西和中辞典』は「《con... ・・・と》競う、張り合う」、『現代スペイン語辞典』と『スペイン語大辞典』は「[+con と] 力を競う、戦う; 雌雄を決する」だ。3つとも例句の訳に「対戦する」を載せている。共起する前置詞については、明示的に con を載せているが、a への言及はない。

María Moliner の DUE の第3版には «(con) *Competir» という語義があり、ここでも示されているのは con だけだ (第4版は未見)。

なので medirse a は比較的新しい言い方なのかも知れないが、ちょっとgoogleってみると:

  • "España se medirá con": 約24,000件
  • "España se medirá a": 約49,400件

という結果。Medirse a が約2倍だが、問題としている構造とは違う例が含まれている可能性もあるし、同じ文章が繰り返し引用されている可能性もあるから、考えるきっかけ程度の数字だ。でも、a が普通に使われている状況だということは想像できる。まあ国営放送のニュースで使うぐらいの表現なわけだけど。

Medir は「測る」がもとの意味だから、medirse con の con は「たけくらべ」の相手を指すのだろう。でも、con だと「対立感」が出にくいと感じるのはネイティブでも同じなのかもしれない。それで a の登場ということになったのだろうかと思う。

そのうち medirse a が辞書に普通に載るようになるか (既に載せているものもあるかもしれない)、あるいは結局採録されずじまいになるか、僕には分からない。辞書編纂者の判断ということになるが、大変な仕事だなと思う。Medirse だけ追っかけていれば良いわけではないし、言語は絶えず変化するから、広く目配りしながら日々地道に観察を続けなければいけない。3日単位で仕事している僕にはとてもじゃないが無理だ。

  • 宮城昇ほか (編), 1999, 『現代スペイン語辞典』改訂版, 白水社 (iOS版, LogoVista 電子辞典 2013-2016, ロゴヴィスタ).
  • Moliner, María, 2007, Diccionario de uso del español, 3.ª edición, Gredos.
  • 高垣敏博 (監修), 2007, 『西和中辞典』第2版, 小学館 (iOS版, 物書堂, 2010, ver. 2.6.3)
  • 山田善郎ほか (監修), 2015, 『スペイン語大辞典』, 白水社 (iOS版, LogoVista 電子辞典 2017-2018, ロゴヴィスタ).