2019年12月10日火曜日

Parecer (2)

前回、『現代スペイン辞典』と『スペイン語大辞典』における parecer のヘンテコな記述について議論した。その後すぐに、そのヘンテコ性の原因は分かったのだが、記事にする時間が取れなかった。ちょっと間があいて間が抜けた感じではあるが、報告しておく。

その原因は María Moliner だ。

Moliner (1981: s. v. parecer) の2番目の語義:
Tener una cosa el mismo aspecto que otra que se expresa, *parecerse a ella: ’Tienen una casa que parece un palacio’. ⦿ Tener una cosa cierta apariencia con la que *engaña haciendo creer que es otra o de otra manera: ’Con los espejos, la tienda parece mucho más grande. Con esa cara parece una santita’. ⦿ («a»). En la frase proverbial ’el que [quien] a los suyos parece honra merece’, «parecer» equivale a «parecerse».
で、明示的に parecerse を使って説明している。これを見て「似ている」という語義をつけてしまったのだろう。例文を見ても、ここを参照しているのは確実だ。

ちなみに * 印は «Indica que le artículo encabezado por la palabra a que afecta contiene un catálogo de palabras afines y relacionadas (Moliner 1981: tomo 1, LV)» で、この場合 parecerse の項目中に関連語彙が集められている。最初の方だけ挙げておくと:
Tener [Darse] un aire, aproximarse, asemejar[se], asimilar[se], evocar, estar hablando –hablar–, igualar, imitar, inclinarse, madrear, darse la mano, oler a, padrear, correr parejas, rayar en, recordar, rozarse, oler a, salir a, semblar, semejar[se], sugerir, tirar a (s. v. parecerse)
という具合だ (oler a が2回出てくるのはご愛敬)。これらの語を見て分かるように、星印は必ずしも同義関係を表すわけではない。しかし、上の parecer に出てくる parecerse は直接の語義説明だし、しかも注意を引く印がついている。まあ、これに引きずられたのだろうな。

なお、第1版には parecer とは別に parecerse という見出しがあり、上の関連語彙はその中にあるが、第2版では parecerse は独立した見出しではなく、parecer の中で再帰動詞の用法が説明されている。だとすると、見出し語ではない parecerse に * はつかないはずだが、第2版でも第3版でも * は取れていない (oler a の重複もそのまま)。

さて、María Moliner の辞書は大変評価の高い優れたものだが、もちろん完璧な辞書は存在しない。ここで parecer の意味を parecerse で説明するのは不適切だ。彼女が parecerse の意味で parecer が使われているとして挙げている諺の例は、むしろこの2つが少なくとも現代のスペイン語では意味が異なることの傍証になる。試しに el que a los suyos parece で検索すると約3,420件、el que a los suyos se parece だと約25,800件で、現代スペイン語としては parecerse を使った方が落ち着くようだ。

というわけで、かつては parecer が「似ている」で使われることがあったにせよ、今のスペイン語の記述としては、特に学習者向けの辞典においては、parecer と parecerse が別物だということが明確に示すべきだ。Moliner に遠慮することはない。と言うか、批判すべきところを批判するのが著者に対する礼儀だろう。

あ、それから前回「ゴリラに似ている」は parecerse で言えそうだと言った。これは特定のゴリラではなくてカテゴリーが対象になっている場合の話で、実際そういう例を見つけたからそう書いたのだが、2人のネイティブに聞いたら、どうも難しいようだ。1人は、自分は絶対そういう言い方はしないと言い、もう1人は「あの人何に似てる?」みたいな質問に対してなら言えるだろうけど普通言わない、と答えてくれた。2人はイベリア半島のスペイン語を喋る人たちで、見つけた例は中南米のスペイン語のようなので、もしかしたら地域差があるかもしれないが、個人差や別の要因が絡んでいるのかもしれない。

というわけで、とりあえず parecerse は特定の個体に似ている場合に限って使うのが無難みたいだ。


  • 宮城昇ほか (編), 1999, 『現代スペイン語辞典』改訂版, 白水社 (iOS版, LogoVista 電子辞典 2013-204, ロゴヴィスタ).
  • Moliner, María, 1981, Diccionario de uso del español, reimpresión, Gredos (primera edición 1966-67).
  • Moliner, María, 1998, Diccionario de uso del español, 2.ª edición, Gredos.
  • Moliner, María, 2007, Diccionario de uso del español, 3.ª edición, Gredos.
  • 山田善郎ほか (監修), 2015, 『スペイン語大辞典』, 白水社 (iOS版, LogoVista 電子辞典 2017-2018, ロゴヴィスタ).