2015年4月18日土曜日

Comparando

日本語には比較級がない。「リンゴの方が安い」とか「リンゴよりも安い」のように、名詞の方をマークすることで比較を表すことができるので、別に不都合はないが、形容詞が無印のままであることと、これから紹介する現象は、もしかしたら関係しているかもしれない。

スペイン語では形容詞をマークすれば比較表現になる。たとえば «son más baratas» だけで比較表現としては一人前だ。ところが日本語話者のスペイン語学習者 (以下「日本人学習者」) の中にはこれを「とても安い」と訳す人が珍しくない。もちろん比較級は学習ずみだ。原因として考えられるのは、日本語の比較表現が名詞、と言うか正確には比較されるものに相当する項をマークすることで成り立つということだ。「~の方が」と「~よりも」の両方を含む概念として「比較項」という言い方を使うことにするが、«son más baratas» には比較項が明示されていない。「より安い」という訳が教科書的だが、硬いし、これだけでは落ち着かない。というわけで、文脈を見て補う必要が出てくる。「その方が安い」とか「リンゴより安い」とか。しかし、ご想像どおり、学習者たちはなかなかそういうことをやってくれない。

日本人学習者がスペイン語の比較は認識できるが上手く日本語にできないのか、それとも比較自体を捉えそこなっているのか、よく分からない。ただし、特に長めの文になると、比較項があってもそれを無視して、と言うか捉えそこなって「とても安い」と言う学習者もいるので、もしかしたら後者なのかもしれない。いずれにせよ、授業では más があったら que を探せ、que がなかったら文脈を見ろと言うのだが、体系的に練習する時間はなかなか取れない。読む授業をもっと充実させる必要があるのだが・・・

この文章を一旦書き終えたあと、比較項を表現せずしかも日常的な言い方で「もっと安い」があることに気がついた。だが、比較項がイメージできていないと訳文として思いつくのは難しいかもしれない。それに、「もっと〇〇」は単純な比較表現ではないように思える。まあでも、逆に言えば比較項を喚起する力が強い表現だということだから、上手く使えば比較級習得の助けになるかもしれない。