2015年8月14日金曜日

Gran crónica del cante 17



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今回は Niña de los Peines 級の大物はいないが、チラシ風の言い方をすれば実力派ぞろい (本当は「実力派」ってのがどういう流派あるいは派閥なのか分からないのだが)。Guerrita, Niño del Museo, Niño de Utrera の3人は年齢も近く、オペラ・フラメンカに出演したりと共通点が多い。一応説明しておくと、オペラ・フラメンカというのは、物語的な筋があるわけではなく、出演者がそれぞれのレパートリーを歌うという興行形態のもの。もとは Vedrines という興行主が自分の企画につけた名前だが、すぐに普通名詞化した。歌われたレパートリーは当時流行のファンダンゴ一色だったわけではなく、幅広い種類のカンテが歌われていた。ソレアやシギリージャといった本格的なレパートリーもその例外ではない。オペラ・フラメンカを堕落の象徴のように捉える見方がかつては支配的だったが、それも中身をよく知らずに決めつけていた側面があり、今ではより客観的評価がされるようになってきている (少なくとも研究者の間では)。

また、Guerrita, Niño del Museo, Paco (Niño) Isidro は La copla andaluza という劇場作品に出演しているという共通点を持つ。これは一応筋のある作品で、1928年の暮れに初演されて大ヒットし、後に映画にもなった。Niño de Utrera はこれには出ていないようだが、やはりいくつか劇場作品に出演している。

さらに、Imperio Argentina は1930年代に絶大な人気を誇った歌える女優、Lola Flores はその後の世代でやはり一世を風靡した大スターだ。2人とも純粋にフラメンコだけという人ではない。特に Imperio Argentina は Blas Vega と Ríos Ruiz の辞書に見当らないので、基本的には別ジャンルの人だと認識されているわけだ。しかし、こういう人が自分が主演する映画の中でフラメンコを歌ったという事実自体が非常に重要なのだ。映画、ラジオといったメディア、それを言うならレコードもそうだが、これとフラメンコの関係は、何となく人々が思っているであろうよりもずっと密接なのだ。劇場や大観衆向けのオペラ・フラメンカも含め、こういう形でフラメンコが多くの人々が楽しめるジャンルになったわけだ。

もちろん、さっき述べたように、この時代のフラメンコを評価しない人たちも多いのだが、マーケットが大きくなれば売れることだけを目指した薄いパフォーマンスが増えることは想像できるし、ファンダンゴの隆盛はカンテをよりお喋りに・センチメンタルにしたかもしれない。でも、このCDの演唱を聞いてみれば、皆それぞれ個性があって上手い人たちだということが分るはずだ。ひとり、時代の流れと距離を置いていた (あるいは流れの方が寄って来なかった) ようなのが Paco el Boina だが、言わばよりプーロなこの人と他の人たちの間に芸術的レベルという点で違いがあるとも思えない。

今回のメンバーの中で気に入った歌い手を1人選べと言われたら、ちょっと迷うが Guerrita にしておこうか。タランタがいい。特集の Niño Isidro はまだ聞き込んでいないのだが、Paco Toronjo につながる道筋が確かに見えたのが収穫。


Blas Vega, José & Ríos Ruiz, Manuel (1990), Diccionario enciclopédico ilustrado del flamenco, 2ª edición, Editorial Cinterco.