2015年1月6日火曜日

Tabla 2

というわけで、かな入力の練習中。まだまだ途轍もなく時間がかかるが、慣れたらローマ字入力よりストロークが少なくなるはずなので、より速くなるはずだ。それに、かな1字1ストローク (濁音・半濁音は2ストローク) というのは、なんだか清々しい。

前の記事で僕は訓令式でローマ字入力していると書いたが、一貫していないことに気づいた。「シャ・シ・シュ・シェ・ショ・チャ・チ・チュ・チェ・チョ」は確かに sya, si, syu, sye, syo, tya, ti, tyu, tye, tyo と入力しているのだが、「ジャ・ジ・ジュ・ジェ・ジョ」は ja, ji, ju, je, jo と打っている。これはヘボン式。「ツ」は tu 「フ」は hu で入れているので、ジャ行だけ例外ということになる。まあ、この方が純訓令式よりストロークが少ないという言い訳は成り立つ。

これは入力方式の話。ストレスなく打ててまともな結果が出ればどんなやり方でも構わないとは言える。しかし、日本語のローマ字表記という問題になると話は別だ。僕も言語研究者のはしくれだから、ヘボン式より訓令式の方が日本語の音韻体系に即した良い方法だと思っている。しかも、後者が内閣訓令 (1954) で優先的に扱われている方式で、国際標準にもなっている (ISO 3602)。これに従わない理由はないはずなのだが、僕も多くの日本人と同様ヘボン式で書くことがほとんどだ。自分の名前に含まれる「シ」は shi で書いているし、勤め先の住所は Fuchu とか Asahi-cho とか書く。で、実はローマ字表記の問題が頭をかすめるたびに自分の中にある理論と実践の齟齬に居心地の悪さを感じていたわけだ。しかし、最近ヘボン式 (というか第2表の部分的適用) で良いのではないかと思うようになった。

一番大きな理由は慣用。数からいえば圧倒的にヘボン式が優勢だ。世の中には音韻的に非常に合理的な正書法を持った言語もあるが、全然そうじゃない言語もある。多少不整合があっても、簡単に覚えられてみんなに受け入れられる書き方の方がいい。ヘボン式は最良の解ではないが許容範囲だろうし、使用実績は十分だ。

もう少し音韻的な面から考えてみる。拗音を「子音 + y」と解釈するか単一の口蓋化子音と解釈するかで説明の仕方が多少変わるが、ここでは後者でやってみる。現代日本語には非口蓋化子音と口蓋化子音の対立がある (直音/拗音)。しかしこれは /i/ の前で中和し、音声的には口蓋化子音で実現される。/s/-/s'/ (口蓋化を ' で表す) を例にとると、こんな感じだ:

/a//i//u//e//o/
/s//sa/ [sa]/Si/ [ɕi]/su/ [sɯ]/se/ [se]/so/ [so]
/s'//s'a/ [ɕa]/s'u/ [ɕɯ]/s'e/ [ɕe]/s'o/ [ɕo]

さて、/i/ の前での子音の実現が口蓋化子音だというのは「シ」「チ」では見えやすい。これは他の子音にも、それほど分かりやすくないかもしれないが、あてはまる。たとえば「タチツテト」と「ナニヌネノ」を繰り返して言ってみよう。「タチ」のところと「ナニ」のところで舌の動きがだいたい同じなのではなかろうか。

中和しているので [ɕi] を si と表記することに問題はない。音声的実現に即して「シャ」と同じ書き方をするのもありだろう (たとえば syi とか shi とか)。ただし、だったら kyi や nyi と書かないと一貫性に欠ける。今のところ、この中和が機能しなくなって /si/-/s'i/ の対立が生まれる気配はなさそうだが、「チ」と「ティ」、「ジ (ヂ)」と「ディ」はもしかしたら音韻化してきているかもしれない。「チ/ティ」の対立について、口蓋化子音の方 [tɕi] を /ti/ と解釈し、非口蓋化子音の方 [ti] に何か別の解釈を施すという手もあるが、今採用している枠組みでは「チ」を /t'i/ として「ティ」を /ti/ と解釈するのが素直だろう。そして、ヘボン式の chi はこの解釈を反映した表記として利用しうる (ti を「ティ」に使うことができる)。

ローマ字の話をここまでずっとかな入力でしてきた。スピードが出ないので、書きながら書きかけの文 (センテンス) を頭が推敲し始める。書いてる途中の文を書き直していると、ちっとも前に進まない。面白い経験だが、疲れる。この記事が全体としてまとまりのない印象を与えるとすれば、多分そのせいだ。