2013年2月23日土曜日

vario


基本的な形容詞だが、単数形で書くと馴染みがないように見えるのは、多分気のせいではない。これが «dijo varios nombres» みたいな形で出て来たのを「様々な名前」と訳す学生がいたのでがっかりしたのであった。もちろん「名前をいくつか言った」のだ。

形容詞 vario は、僕の経験では複数形で名詞の前に来ることが圧倒的に多く、その場合は、まず «Algunos, unos cuantos (DRAE, s. v. vario, acep. 5)» であると考えてよい。少なくとも、僕はそう考えて失敗した経験がない。だから4年生にもなれば、いくらなんでもそのくらいは慣れで覚えただろうと思っていた僕が甘かったわけだ。これから語彙教育のやり方を考え直さなければいけない。

この vario は、英語を既に知っている学習者にとってはいわゆる falsos amigos (vario / various) で、悪い友達に感化されないよう手段を講ずる必要がある (ほどでもないと思っていたんだけどな)。ところが、現在 (電子辞書のおかげで) おそらく最も多く使われている『現代スペイン語辞典 (随分前に買った電子辞書版)』は、まず「英 various」という記述から始めて、最初の語義は「様々の、いろいろな;雑多な」で、2番目に「複、[+名詞] いくつかの」を挙げている。これでは various に引きずられて間違えてくださいと言わんばかりの書き方だ。確かに、最初の語義に対する用例は全て名詞の後ろ、2番目の語義に対する用例は名詞の前で、ちゃんと読めば分かるようになっているのだが、分かっている人には分かるのであって、例によって最初の語義の最初の訳語しか見ない大半の学習者を救うことはできない。

それに対して『西和中辞典 (ipad 1.3版)』では、まず「複数で(+名詞)(ser+)いくつかの、いくつもの」を挙げている。これなら『現代スペイン語辞典』よりも学習者が足を突っ込む可能性が格段に減るだろう。ただ、「いくつかの」と「いくつもの」では随分違うと思うのだが、どうなんだろうか。

一方『デイリーコンサイス西和・和西辞典』は最初の語義に「《名詞に前置》複、いくつかの、数人の」が来ていて、次が「様々な、多様な」。とても分かり易い。この辞典、小さくて目立たないが、こういう良い記述が随所にあって、持ってて損は無い。

ちなみに DRAE (22版、オンライン版) では «1. adj. Diverso o diferente. / 2. adj. Inconstante o mudable. / 3. adj. Indiferente o indeterminado. / 4. adj. Que tiene variedad o está compuesto de diversos adornos o colores» と続いたあとに、ようやくさっきの «5. adj. pl. Algunos, unos cuantos» が出てくるのだが、これは学習者用の辞典ではないので許せる。興味深いのは、どの語義も数の多さを示唆する記述になっていないことだ (語義4は内部的な多様性に言及しているのみ)。僕の日本語では「様々な」とかは数の多さを想起させるのだが、vario はそうでもないのかもしれない。想像するに vario は variar からも分かるように、「異なり・変異」に注目するのが意味のコアであって、それが複数のものに適用されると「それぞれ異なる」と読まれるということなのだろう (複数のものが一丸となって他のものとは異なるという読みが可能かどうかは分からないので誰か調べてください)。変異性への注目が薄れると残るのは複数性で、「いくつかの」という読みになる。別の言い方をすれば、変異性、個別性、複数性というのはかなり近いところにある概念だということか。